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札幌地方裁判所小樽支部 昭和48年(わ)38号 決定

少年 E・T(昭三〇・八・一四生)

主文

本件を札幌家庭裁判所小樽支部に移送する。

理由

一件記録によると、

被告人は、

第一  昭和四八年一月一一日午後一一時から翌一二日午前〇時ごろにかけて、小樽市○町××番地○日○海○エ○ー株式会社事務所において、同会社常務取締役○田○茂管理のトランジスターラジオほか二点(時価合計約一六、二〇〇円相当)を窃盗し、

第二  同年三月六日午前二時すぎ、A、Bとともに、小樽市○○×丁目××番×号付近の通称○○通りを通行中、○田○雄(当三三年)が人通りのとだえた右○○通りを歩いてくるのを認め、A、Bと意思を通じたうえ、右○田から金品を強取しようと考え、Bが、肩をことさら○田の肩にふれて言いがかりをつけ、同人を近くの飲食店「○○○ビリヤード」前小路に連れ込み、被告人ら三名が、かわるがわる数回、同人の腹部などを膝、あるいは足で蹴り、顔面を手挙で殴打するなどの暴行を加え、その反抗を抑圧して、同人からその所有の現金一〇〇円入りの財布一個(時価約五、〇〇〇円相当)を強取し、なおも、同所付近で、同人の身体を手挙で数回殴打したり、足で蹴り、あるいは、工事現場にあつた鉄筋用の鉄棒を同人の顔面に打ちあて、右鉄棒で同人の腹部を数回突くなどの暴行を加え、そのころ、同市○○×丁目×番×号の路上において、右○田から同人所有の腕時計一個(時価約四、〇〇〇円相当)を強取し、ひきつづき、同人を同市○○×丁目×番×号の被告人が借りていたアパート居室に連れて行き、同日午前三時ごろ、右居室において、○田からその所有の現金一〇円、および指輪ほか雑品八点(時価合計約五、二二〇円)を強取し、その際、右暴行により、同人に対し、加療約一ヵ月を要する全身打撲の傷害を負わせた事実が認められる。

そこで、被告人の処遇について考えるに、本件第二の犯行は、前認定のとおり、共犯者とともに数次にわたり直接暴行を振い、被害者に対し、執拗に金品を要求し、しかも相当重い傷害を負わせており、犯行の態様、結果、および被告人の役割などにてらし、右犯行は、いずれも悪質かつ重大である。また、共犯者である少年Bについては、Aと同様、刑事処分に付されており、これらの共犯者との処分の均衡などを考慮すると、被告人に対し、刑事処分に処することも考えられる。しかしながら、被告人は、これまでなんらかの保護処分に付されたことがなく、本件各犯行前には証拠上格別の非行歴も見当らず、まだ一七歳という可塑性に富んだ若年の身にあることなどを考えると前記事案の重大かつ悪質なることや他の共犯者二名がともに刑事処分に処せられることをも考慮しても、なおかつ被告人を刑事処分に付するのは、いささか躊躇せざるをえない。むしろ被告人が本件第二の犯行以前にも夜間侵入盗である第一の犯行をなしていること、被告人は、非行歴こそないがわずか一年三ヵ月の間に職場を五カ所も転々とし、第二の犯行時には、正業につかずパチンコ店や盛り場を徘徊したり、飲酒などして無為徒食し、その生活態度は、乱脈を極め、右第二の犯行は、飲酒によつて、所持金を使い果した結果、遊興費ほしさからおよんだいわゆる路上強盗であること、その性格面においては、幼稚な攻撃性を示し、自己中心的で抑制力に欠け、やくざの気風に共感をおぼえ、また自分の非を棚にあげて他人の不公平な扱いを攻撃し、自分の行動を合理化する外罰的傾向が顕著で、暴力犯罪へ走りやすく、社会的適応性において問題があること、さらに被告人をとりまく環境は、両親は、○○○に在住しているが、被告人は親の統制を拒否して、単身アパートを借りうけ、前記定職をもたないA、Bと生活を共にするという芳しからぬものであること(これらの点は関係各証拠により認められる)、などを総合すると、被告人は性格の矯正の必要性や環境の調整の必要性が強く感ぜられるのであつてこの点をも考慮すると、被告人を矯正施設に収容して、人格、環境面からの働きかけによつて、社会への適応性をえさしめる保護処分の措置をとるのが望ましいと思われる。

よつて、少年法五五条を適用して、本件を札幌家庭裁判所小樽支部に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高橋正之 裁判官 岡崎彰夫 長野益三)

受移送家裁決定(札幌家裁小樽支部 昭四八(少)一九二号 昭四八・六・二二決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一 昭和四八年一月一一日午後一一時から翌一二日午前〇時ころにかけて、小樽市○町××番地○日○海○エ○ー株式会社事務所において、同会社常務取締役○田○茂管理のトランジスターラジオほか二点(時価合計約一六、二〇〇円相当)を窃取し、

第二 同年三月六日午前二時すぎ、A、Bとともに、小樽市○○×丁目××番×号付近の通称○○通りを進行中、○田○雄(当三三年)が人通りのとだえた右○○通りを歩いてくるのを認め、A、Bと意思を通じたうえ、右○田から金品を強取しようと考え、Bが、肩をことさら○田の肩にふれて言いがかりをつけ、同人を近くの飲食店「○○○ビリヤード」前小路に連れ込み、少年ら三名が、かわるがわる数回、同人の腹部などを膝、あるいは足で蹴り、顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え、その反抗を抑圧して、同人からその所有の現金一〇〇円入りの財布一個(時価約五、〇〇〇円相当)を強取し、なおも、同所付近で、同人の身体を手拳で数回殴打したり、足で蹴り、あるいは、工事現場にあつた鉄筋用の鉄棒を同人の顔面に打ちあて、右鉄棒で同人の腹部を数回突くなどの暴行を加え、そのころ、同市○○×丁目×番×号の路上において、右○田から同人所有の腕時計一個(時価約四、〇〇〇円相当)を強取し、ひきつづき、同人を同市○○×丁目×番×号の少年が借りていたアパート居室に連れて行き、同日午前三時ごろ、右居室において、○田からその所有の現金一〇円、および指輪ほか雑品八点(時価合計約五、二二〇円)を強取し、その際、右暴行により、同人に対し、加療約一か月を要する全身打撲の傷害を負わせ

たものである。

(適用すべき法令)

第一の事実 刑法二三五条

第二の事実 同法六〇条、二四〇条前段

(中等少年院に送致する理由)

少年は、非行歴こそないが、本件第一の非行である夜間の侵入盗を犯して間もなく、本件第二の非行をなしている。また、少年は、幼稚な攻撃性を有し、自己中心的で、外罰的傾向が顕著であつて、暴力性犯罪に走りやすく、社会的適応性に問題がある性格の偏倚を示していることが、鑑別結果から明らかで、さらに、社会調査の結果から認められるように、正業に就かずまじめな生活態度も見られないし、交友関係は乱脈であつて、ひいて、こうした性格、環境が重大な本件第二の非行の縁由となつており、このまま放置しておけば、再非行の危険性がきわめて大きいことは、これを推察するに難くない。そして、以上の各事実に加え、保護者の保護能力が乏しいことなど諸般の事情を考慮すると、少年を中等少年院に収容して専門的指導のもとで矯正教育することが、少年の健全な育成のため必要かつ相当であると思料される。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 長野益三)

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